人事異動や出向・転勤のトラブル
人事異動・出向・転勤は、使用者側からすると、個性ある労働力の配置の観点から行われるもので、使用者の裁量によって行われるべき性質のものといえます。
一方、労働者の側からみると、勤務地が変更される転勤(配転)であったり、業務内容が変わったり、また、賃金が変わったりと関心の高い事柄であり、時折紛争の対象となります。
このページでは、人事異動や出向・転勤のトラブルについてご紹介します。
よくある人事異動や出向・転勤のトラブル
・昇格・昇進・降格に関するトラブル
昇格とは、役職を上昇させることをいい、昇進とは、職能資格制度における資格の上昇をいいます。
職能資格制度とは、端的にいうと、職務上の能力と賃金が結びついた制度のことをいいます。
降格には、上記役職の移動である昇格の反対の意味と、昇進の反対の意味の両方が含まれています。
まず、昇格や昇進については、労働者にとってメリットであるため、争いになることは少ないといえます(差別的人事の場合には別途問題となり得ます)。
これに対して、降格に関してはしばしばトラブルになり得ます。
昇格の反対である降格に関しては、使用者の裁量的判断によって行える人事権の行使であるため、権利濫用に該当する場合を除き、適法といえます。
権利濫用にあたるかどうかは、①降格の必要性、②労働者の能力、③労働者の不利益の程度から判断されます。
昇進の反対である降格は、賃金の減少を意味するため、労働契約の内容になっていない限り行うことができず、また、評価制度や基準によってその有効性が判断されます(アーク証券事件)。
・出向、転勤に関するトラブル
出向とは、労働者が使用者との労働契約関係を維持しつつ、長期にわたってほかの企業の指揮命令に服して労働することをいいます。
転勤とは、労働法上「配転」とされており、労働者の職種、職務内容又は勤務時間を同一企業内で相当程度にわたって変更することをいいます。
出向は、法的には、労働者の契約上の地位の一部の譲渡となります。
そのため、原則的に考えれば労働者に個別の承諾を求める必要があることになりますが、就業規則等に、業務上の必要によって出向させることがある旨の規定があり、出向の定義、出向期間、出向中の社員の地位、賃金その他の処遇等に関して出向労働者の利益に配慮した詳細な規定がある場合には、個別の合意がなくとも、出向は有効とされます。
もっとも、権利の濫用として無効とされる場合もあります。
権利の濫用に当たるかどうかは、①出向の必要性、②人選の合理性、③労働者の不利益、④手続きの相当性から判断されます。
配転に関しては、契約上、職種、勤務地を限定する明示又は黙示の合意がある場合には、配転命令権はその範囲が制限されます。
そして、上と同様、①当該配転命令について業務上の必要性が存しない場合や、②ほかに不当な動機がある場合、労働者に甘受するべき相当な範囲を超える不利益を負わせるものであれば権利濫用となります。
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以上のように、人事権の行使であり裁量的に行われるものであっても、契約上、あるいは労働法上、制限されることはあり、これに反する人事権の行使は無効となり、無効であった間の賃金、慰謝料請求、元の地位の確認請求の対象となります。
そのため、使用者としては、適法に行えるものなのか弁護士に相談し、労働者としては、自身が受けた人事は有効なものか弁護士に相談することをお勧めします。
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石川 一彦いしかわ かずひこ / 埼玉弁護士会
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- 経歴
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昭和38年5月6日生まれ。神奈川県横浜市出身。
人事コンサルとして、多くの企業様からのご相談に対応してきた実績を持つ。
仕事にやりがいを感じ、より多くの相談を受け、サポートを深めて行きたいと資格取得を決意。
2019年に資格を取得する。 目指しているのは「生涯現役」。
常に自己研鑽を怠ることなく、日々の業務に邁進している。
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